神田泰典さんのサイト内、「キーボードのJISカナ配列」
http://www.ykanda.jp/input/jis/jis.htm
の新JIS規格の画像を元にHTML化した。


・図表は面倒になったので省略した
・変換をわざと変えている(けん盤→鍵盤など)
・自分が気づいてない誤字がある
ので、実際の内容に関しては元画像を参照することを推奨。
なお、JIS C6236-1986はJIS X 6004-1986と改称されている。


   仮名漢字変換形日本文入力装置用鍵盤配列 解説
1. 制定の目的と経過
2. 適用範囲
3. 用語の意味
4. 審議の経過
   4.1 概要
   4.2 基礎資料の収集
    4.2.1 仮名文字の使用頻度調査
    4.2.2 指の運動特性について
   4.3 鍵盤配列の設計
    4.3.1 基本方針
    4.3.2 配列案の作成
   4.4 鍵盤配列の評価
    4.4.1 仮名文字の使用頻度による評価
    4.4.2.入力実験による評価
5. 適応に関する付帯規則



JIS C6236-1986

仮名漢字変換形日本文入力装置用鍵盤配列 解説

1. 制定の目的と経過

 この規格で定めた鍵盤配列のように、仮名の配列を規格の一部として含む日本工業規格には、既にJIS C 0803-1961(印刷電信機の鍵盤配列及び符号)、JIS B 9509-1964(かな・ローマ字タイプライタの鍵盤配列)及びJIS C 6233-1980(情報処理系鍵盤配列)の3種類が制定されている。それにもかかわらず、ここに再び鍵盤配列に関する新しい日本工業規格を制定しようとするのは次の理由による。  
  1. 上に示した日本工業規格のうち、JIS C 0803及びJIS B 9509には”拗音”や”促音”などを表記するのに必要な小文字に関する規定がないため、これらを用いて日本文を入力する事は不可能である。
  2. JIS C6233には小文字に関する規定は定められているものの、タッチ打法による操作が英文タイプに比べて著しく困難なこと、タッチ打法によって操作すると小指の使用度数が著しく高くなるなどの欠点があって、日本文の入力用として使用する事は必ずしも適当ではない。
  3. 仮名を含む鍵盤は、仮名漢字変換形の日本文入力装置の鍵盤として今後広く使用されるものであり、その操作性の良否は、我が国における文章作成業務の生産性に大きな影響を与える。
  4. 従来の鍵盤配列は、すべて機械式の鍵盤を前提としたものであるが、最近の電子技術の進歩は、例えば鍵盤装置における無接点化を可能にするなど、鍵盤装置の構造にも大きな影響を与えている。電子技術におけるこのような進歩を鍵盤配列に反映させる事によって、操作性の点で格段に優れた鍵盤配列を得る事ができる。
   通商産業省工業技術院は、従来の鍵盤配列におけるこのような問題点を考慮し、日本語情報処理の標準化に関する調査研究の一環として、仮名漢字変換形日本文入力装置で使用する事を主な目的として鍵盤の配列に関する調査研究を、社団法人 日本電子工業振興協会に委託した。この日本工業規格の原案は、上記の委託を受けて社団法人日本電子工業振興協会が設置した”日本語情報処理標準化調査委員会”及びその下位組織である”A 専門委員会”が作成したものである。この二つの委員会の構成については巻末に示した。

2. 適用範囲

 ここに規定するのは、主として、仮名漢字変換形日本文入力装置で使用する両手操作形の鍵盤配列であって、仮名文字、数字、仮名文字用記号、英字、英字用記号及びシフト機能キーの配列を対象としたものであり、図形文字の種類については、JIS C 6233の規定のとおりとすることとした。
 審議の過程では、シフト機能キー以外の制御文字キー及び仮名漢字変換用キーについても規定すべきであるとの意見があったが、これらのキーは、システムに対する依存度が特に大きい事を考慮して、規定しないこととした。

3. 用語の意味

 用語としては、次の四つを採り上げた。
  1. 仮名漢字変換形日本文入力装置
  2. プレフィックス形シフトキー
  3. 同時押下形シフトキー
  4. 図形文字
このうち、プレフィックス形シフトキーは、図形文字キーに対するのと同じ操作法が運用可能であるようにしたシフトキーであり、同時押下形シフトキーは、従来のいわゆるノンロック形のシフトキーである。ただし、この規格においては、従来形のシフトキーの操作に慣れたオペレータの便を考慮して、プレフィックス形のシフトキーに対しても同時押下形と対するのに同じ操作法が可能であるように定めた。

4. 審議の経過

 

4.1 概要

 この規格原案を作成するに当たっては、まず鍵盤配列の最適設計に行うのに必要な基礎資料の収集を、仮名文字の使用頻度調査とオペレータの指の運動特性に関する実験的検討という二つの面から行い、ついでこれらの基礎資料を総合して操作性の点で優れた鍵盤とはどのようなものであるかを検討し、その後に具体的な鍵盤配列案を複数組求め、最後にシミュレーションによって最適な配列案1組を決定した。
 各作業手順のあらましは、次に述べるとおりである。  

4.2 基礎資料の収集

4.2.1 仮名文字の使用頻度調査

 仮名の使用頻度調査は、漢字仮名交じり文を仮名だけで表記した場合の仮名の使用度数調査と、2文字連糸・3文字連糸の使用度数調査を併せて行った。調査対象とした資料は、高校教科書(9教科・9冊、130万字)・科学技術文献速報タイトル(日本科学技術情報センター、99万字)・情報処理学会誌(1年分、46万字)・天声人語・続天声人語(合計16万字)である(後の3資料では仮名表記部分だけを調査対象とした。)。   

4.2.2 指の運動特性について

 オペレータの指の運動特性に関するデータの収集は、この調査研究のために開発した供試装置を被検者(延べ32名)の使用に供し、被検者によって入力された文字の入力時間を文字ごとに測定することで行った。供試装置としては、操作性が鍵盤の構成によってどのように変わるかを知るため、次に示す3種類を使用した。
  1. 仮名文字をB段〜E段の4段にわたって配列した4段形鍵盤装置。ただし、4段形装置には、文字配列をJIS C 6233と同じにした1T形、及び1T形配列におけるE段の文字をD段、C段、B段の文字とそれぞれ入れ替えた2T、3T、4Tの4種類がある。
  2. 仮名文字をB段〜D段に配列した3段形鍵盤装置。
  3. 仮名文字をB段〜D段に配列するとともに、シフトキーをA段の中央付近においた(センタシフト方式)鍵盤装置。
 なお、(1)(2)の供試装置のシフトキーはB00、B11に置かれている。(以後、これをサイドシフト方式と呼ぶ。)。また、3段形装置のシフトキーは、いずれもプレフィックス形である。
 実験に当たっては、各文字の出現頻度が等しくなるように特別に作成したテキストを使用した。通常の日本文を採用すると、仮名文字の使用頻度に大きなばらつきがあるため習熟効果が特定の指に集中することになって、指本来の動かしやすさを反映したデータが得られない危険がある。
 実験の結果を要約すると、おおむね次のようになる。
  1.  入力速度が毎分当たり100字程度に達するのに要する時間を4段形と3段形で比較すると、3段形は4段形の1/2で済み、入力速度を同じ学習時間で比較すると、3段形の方が毎分当たりで約20字速い(解説図1参照)
  2.  入力誤りを4段形と3段形(センタシフト)で比較すると3段形は4段形の40%になる。
  3.  3段形装置によるアンシフト側の文字の入力時間を、手の遷移別に短い順に示すと、

       左手→右手
       右手→右手
       右手→左手
       左手→左手

    となり、左手を連続して使用した場合の入力時間は、左手→右手の順に使用した場合に比べて、10%程度増加する。
  4.  3段形装置によるシフト側の文字の入力時間は、シフト側右手系の2文字を連続して打鍵する場合が最も短く、シフト側の2文字を左手→右手の順に打鍵する場合に長くなる傾向がある。アンシフト側の左手→右手の場合と比べて、前の場合で4%、後の場合で25%程度増加する。
  5.  3段形装置のシフト側文字の入力には、シフトキーと文字キーを連続して打鍵する必要がある。それにもかかわらず、入力時間がアンシフト側のたかだか1.25倍にすぎないことは、シフトキーと文字キーの打鍵が一連の動作として行うよう習慣づけられたことを示している。このことはまた、シフトキーを使用することが被検者に心理的な負担を与えていないことを意味していると考えられる。3段形装置を使用した被検者は全員シフト側文字の方が入力しやすいという意見であった。
  6.  センタシフト方式とサイドシフト方式を比較すると、入力速度については差が無く、入力誤りについては、センタシフト方式の方が少ない。

4.3 鍵盤配列の設計

4.3.1 基本方針

 鍵盤配列を設定するに当たって、次の基本方針を設定した。
  1. 英字・英字用記号 および数字の配列については、JIS C 6233の規定のとおりとする。ただし、JIS C 6233で規定されている図形文字のうち、B11に配置されているアンダラインはE10のシフト側に移し、B11にはシフトキーを置くこととした。この方針は鍵盤系列に関する国際規格(例えばISO DIS 2126など)に沿った物であるが、シフトキーを打ちやすい位置に配置できるようにする効果もある。
  2. 仮名文字および仮名記号の種類はJIS C 6233で規定されている63文字とする。
  3. 仮名文字は、B段〜D段の3段のキーに配列する。仮名文字を収容するためのキーは、B段に10キー・C段に11キー・D段に11キーの合計32キーとして、左手で15個、右手で17個のキーを受け持つ。
     これによってタッチ打法の習得が容易な配列が得られるだけでなく、E段に配列されている図形文字については、モード切り替えなしに英文タイプと同様な入力操作ができる利点が得られる。
  4. 仮名文字の各キーへの割り付けは次の方針によること。
    1. シフト側には使用頻度の少ない文字を割り付ける。
    2. 左右の手を交互に使用して入力する頻度を可能な限り大きくする。
       この場合、シフトキーの打鍵も図形文字キーの打鍵と同じ1ストロークとして扱う。
    3. 片手を連続して使用する場合、同じ指が連続して移用される頻度、隣り合った段の連続打ちおよび段越え打ちの頻度を最小にする。
    4. 指の使用率については、薬指や小指の使用頻度が、人差し指や中指の使用頻度を上回らないようにする。
    5. 句読点は、コンマおよびピリオドと同じキーに収容する。
  5. 配列案の設計に使用する仮名の頻度データには、高校教科書を対象に調査した資料を充てる。仮名漢字変換形の入力装置で作成される文書には、事務文書のように漢語の使用頻度が高いものが多いと予想され、一方、高校教科書にも漢語が多く含まれているため、配列案の作成を高校教科書のデータに基づいて行うこととした。

4.3.2 配列案の作成

 4.3.1の4.で述べた条件を満足する配列案を得るには、63文字の仮名を32個のキーに割り当てるすべての場合について、シフトキーの使用率、交互打鍵の頻度などを計算することが考えられるが、実際には計算時間が長くなりすぎて実施不可能である。このためこの規格案の作成に当たっては、次に述べるような階層化設計手段を採用した。
  1. アンシフト側/シフト側文字セットの決定
    アンシフト側/シフト側文字セットの決定は、使用頻度上位の32文字をアンシフト側へ、残りの31文字をシフト側へ収容することで行う。
  2. 右手系/左手系文字セット(アンシフト側)の決定
    前項の手順でアンシフト側に収容されることに決まった32文字を左手系の15文字、右手系の17文字に割り付ける全ての場合について交互打鍵の頻度を計算し,それが最大になるように文字セットを決定する。
  3. B/C/D段文字セット(アンシフト側)の決定
    前項の手順で決定した左手系文字セット15文字、右手系文字セット17文字を各段に割り当てるのに可能な全ての組み合わせについて、B段〜D段間の遷移回数を求め、その和が最小になる組み合わせを求める。
  4. 分担指の決定(アンシフト側)
    キーと文字の全ての組み合わせについて、各指が連続して使用される頻度と各指の総使用頻度を求め、最適な組み合わせを選択する資料とする。
実際には各手順とも、成績の良い順に256組の組み合わせを計算機処理によって求め、最終決定は、実験結果を参考にしながら行った人手による評価および実験データと2文字連糸の使用頻度を配列案に適用したシミュレーションの結果を参考にして行った。
 シフト側文字セットの配列については、左手系/右手系文字セットへの分割に”シフトキーに対する打鍵動作を図形文字キーに対する打鍵動作と同様な1ストロークであるとし、交互打鍵の頻度がシフトキーを含めて最大になるようにする”という方針を採用したほか、C段に使用頻度の高い文字を配列することで行った。

4.4 鍵盤配列の評価

4.4.1 仮名文字の使用頻度による評価

 この規格で定めた鍵盤配列の評価を、配列決定に当たって使用した特性値について行った。結果を解説表1〜5に示す(JIS C 6233の場合を参考として付記した。)。

4.4.2.入力実験による評価

 この規格で定めた鍵盤配列の作成に当たっては、仮名文字の使用頻度がすべての文字について一様であるようなテキストによる実験(予備実験)で得られたデータを使用した。このような経緯を経て決められた鍵盤配列の妥当性を評価検証するため、通常の日本文と見なされる天声人語の文章[深代惇郎著:深代惇郎の”天声人語”朝日新聞社(昭和51年)による]を用いて入力実験(評価実験)を実施した。主な結果を列記すると、次のようになる。
  1. 4.2.2で述べた指の運動特性に関する予備実験の結果は、評価実験においてより強調された形で再現されている。この理由は、鍵盤配列を予備実験の結果、動かしやすいと判断された指の動きができるだけ多くなるように決めたため、指本来の動かしやすさに、習熟効果が重なって現れたためであると考えられる。
     このことから考えて、指の動かしやすさに関する基礎資料として予備実験の結果を利用したことは、正しい選択であったといえよう。
  2. 評価実験ではシフト側の文字の入力時間をシフトキーを叩くまでの時間tsとシフトキーを叩いてから文字キーを叩くまでの時間tcとに分けて測定した。この結果によれば、tcはtsに比べて著しく短く、学習時間約30時間の被検者3名が実験の最終時期に入力した3200文字の平均でtcが150msであるのに対して、tsは450msであった。このことは、”シフトキーと文字キーの打鍵は一連の動作として行われており、シフト側の入力が心理的な負担にはならない”とした予想を裏付けるものであると考えられる。
     なお、同じ被検者のシフト側文字とアンシフト側文字の平均入力時間の比は1.4であり、予備実験より大きくなっている。理由は、通常の日本文を使用した評価実験ではシフト側の文字の使用頻度が低く、習熟の度合いが使用頻度が高いアンシフト側の文字に及ばなかったためであろう。経験を重ねることによって、シフト側文字とアンシフト側文字の入力時間の比はより1に近くなるものと考えられる。
  3. 濁点の入力時間が極めて短く、前項で採り上げた3名の被検者の濁点約1800字の入力時間の平均値は190〜90msの範囲内にあった。このような成績が得られた理由としては次のことが考えられる。
    1. 濁点の使用頻度は仮名文字・仮名記号の中で最大であり、学習効果が強く働いたこと。
    2. 濁音に対する打鍵が、予備実験の結果最も打ちやすいとされた左手→右手のパターンで行われるようにしたこと。
    3. 濁点に対しては、2文字連糸の意識が強く働き、濁点の入力が一連の動作として行われたこと。
    4. 濁点を受け持つ右手薬指は、”を”、”。”、”や”、”わ”、”ー”の打鍵にも使用されるものの、これらの文字の使用頻度は低く、薬指の打鍵の70%以上は濁点に対して行われるため、入力作業の大部分が左手薬指を濁点キーの上に置いたままで可能なこと。
 既に述べたように、濁点の使用頻度は、仮名・仮名記号中最大であり、薬指は小指に次いで動かしにくい指であるとされている。この規格でこの二つを組み合わせたことについては審議の過程でも議論の対象になったが、評価実験の結果と先に述べた考察からすると、濁点を右手薬指の分担としたことは正しい選択であったといえる。

5. 適応に関する付帯規則

文字の削除

鍵盤配列を実際に使用するに当たって、ここで規定した図形文字の一部を必要としない場合があることを考慮し、文字の削除をする場合について規定した。

シフトキーの追加位置

センタシフト方式を採用したい場合を考慮して、シフトキーの追加配置について規定した。ただし、センタシフトキーの位置については、この規格で規定しなかった仮名漢字変換キーなどとの関係があるので、厳密には規制しないこととした。また、サイドシフト形のキーを持たない鍵盤の存在は、鍵盤配列の標準化の意義が損なわれるので、認めないこととした。